今、史記を読んでいます。といっても横山光輝さんの漫画版ですが。史記は、中国前漢時代に司馬遷によって編纂された歴史書です。様々な人間の生き様、身の処し方を学ぶことができ、非常に勉強になります。昨晩は第五巻を読みましたが、趙国の武将、趙括のエピソードが印象に残りました。趙括は幼少時より兵法に通じており、同じく武将であった父親を兵法談義で言い負かす事すらありました。才能を自負していた趙括ですが、いざ秦国との実戦に赴くや、その戦術は本で学んだ机上の空論に過ぎず、あっという間に趙国四十万の大軍を失ってしまったとのことです。
私は、心理療法の一つである認知行動療法を専門にしていますが、心理療法でも同じことが言えます。心理療法を語ることと、実際にクライアント(ないし患者さん)に施術することは全くの別物です。流麗に心理療法を語ることができるからといって、その人がその心理療法を使えるとは限らないのです。趙括の父である趙奢も、本から得た知識のみを鼻にかける我が子の危うさを見抜いていたそうです。
認知行動療法は比較的マニュアル化しやすい治療法でもあります。そういったマニュアル本は、本屋さんでも簡単に入手することができます。(写真左側の本は、マニュアルの一つです。)しかし、マニュアルを読んだからといって、その治療がすぐに実践できるわけではありません。大事なことは、マニュアルの行間に存在しており、それは、熟練した治療者からの指導と、積み重ねた実践経験からしか得られないものだからです。
世界中の研究から得られた客観的な事実と、積み重ねてきた自身の実践から得られた経験的な知識、そのどちらも血肉として、現在の状態、考えられる治療法、今後の見通しなどについて、目の前の患者さんにわかりやすく説明することをこれまで心がけてきました。開院するクリニックにおいても、これらの点を大事にして診療にあたっていきます。よろしくお願い致します。