今回は当院に受診していただいている/受診を検討している方ではなく、PEという治療法を受けようかどうか迷っている方へ向けて書いてみます。
PTSDの治療法の一つとして、PE(持続エクスポージャー・PE療法)があります。この治療法について、「辛い記憶になんども直面させ、それに慣れさせる(乱暴な)手法」「患者さんを痛めつけることになる」などと否定的なニュアンスで説明する専門家がいます。この説明を聞いて、受療機会があったにもかかわらず、PEを治療の選択肢から外してしまう方もいます。
ただ、この類の説明(辛い記憶になんども直面〜)は、やや誤解を招くものです。その点について以下に簡単に説明してみます。
辛い記憶と向き合う技法(想像エクスポージャーといいます)がPEの治療プログラムの軸をなしていることは事実です。しかし、想像エクスポージャーは、そのための準備をしっかり行ってから治療者と共同で行いますし、エクスポージャーのあとには、体験を振り返るための話し合いを行います。そして、この話し合いが大変重要なのです。
話し合いの内容も、治療の進行具合に応じて変わっていきます。治療者は、一連の治療を通して患者さんの負担を慎重に見極めていく作業を続けます。とても暖かなやり取りになることもしばしばです。つまり、想像エクスポージャーは、単純に辛い記憶に何度も直面させて慣れさせるだけ、といった単純かつ雑なものでは決してないということです。
PEのことを「辛い記憶になんども直面させ、それに慣れさせるもの」で、「患者さんを痛めつけることになる」などと説明する「専門家」がいたら、その専門家はPEのことをよくわかっていない可能性があります。もし、そのような専門家の説明でPEを受けることを思いとどまっているのだとしたら、他の専門家の意見を聞いてみてもいいかもしれません。
PTSDについては、PEの他にも認知処理療法、EMDR、対人関係療法などといった心理療法が有効であることが示されています。PEを含め、我が国ではなかなか受療機会がないとは思うのですが、これらのキーワードを覚えておかれると良いと思います。これらの治療法は徐々に普及していますので、いつかはみなさんが居住している地域でも受けられるようになる可能性があるからです。
もちろんそれ以外にも有効な治療法がありますし、「〜療法」といったものではなくても、信頼のおける治療者とPTSDの治療にじっくりと取り組んでいかれるのも良いと思います。(ただし、何年通っていても全く変化がない、もしくはどんどん調子が悪くなっていく、という場合は、治療者の変更を考えてみてもいいかもしれません)
PTSDという病気を抱えておられて、PEという治療法を提案された方々がこのページにたどり着いて、PEを受けるか否かの判断をする上での一助となることを祈っています。