2015年12月26日土曜日

ドリー・パートンとホイットニー・ヒューストン、そして、自分の言葉で語ること

I Will Always Love Youというバラードの名曲があります。我が国でも認知度が非常に高い曲と思います。今は亡きホイットニー・ヒューストンの主演映画であるボディーガードのクライマックスで歌われる曲といえばお分かりでしょうか。ホイットニーバージョンはとにかく力強く、まさにパワーバラードといった趣です。

この曲は、もともとはドリー・パートンというカントリー歌手のオリジナル曲です。彼女も超ビッグネームなのですが、我が国ではそこまで知られていないのではないかと思います。オリジナルバージョンは、ホイットニーバージョンとは対照的で、今にも糸が切れてしまいそうな物哀しい雰囲気が漂っています。

私は、オリジナルバージョンの方が、遥かに好みです。どうしてオリジナルの方が優れていると感じるのか、もちろん説明はできるのですが、どうしても、ホイットニーさんの方を貶してしまうような表現になってしまいますし、どうもしっくりこないなあ、とずっと感じていました。

で、先ほどネットをぶらぶらと探索していたところ、これだ!というコメントを見つけました。英語のコメントでしたが、そこにはこう書いてありました。

「ホイットニーも素晴らしい。だけど、誰もドリーのオリジナルは越えられない。この曲を、感じて、生きて、書いたのは彼女なのだから。」

これ以上の説明はないな、と思います。

患者さんが自身の体験や挑戦を経て、状態の改善につながる大きな発見をし、そしてそれについてご自分の言葉で語ってくださる時があります。私がこの仕事していてよかったと思う瞬間の一つです。そういったときに語られる言葉の一つ一つに強い生命力と、説得力を感じるのです。なぜなのか。ネット上で見つけた、先ほどのコメントに、その答えがあるような気がします。

それでは、また。




2015年12月15日火曜日

社交不安障害(社交不安症)を持つ方の第一関門

当クリニックの一つの特徴として、不安障害(不安症)をお持ちの方の割合が比較的多いことが挙げられるかと思います。数ある医療機関やカウンセリングルームの中から、当院を選んでいただき、有り難く思うと同時に、身の引き締まる思いです。

そういった不安障害の中でも、社交不安障害について今日はお話ししたいと思います。社交不安障害をお持ちの方々は、他者との交流状況(社交状況)において強い不安や身体症状が出現し、日々の生活に支障を起こすことが主な困りごとです。当クリニックに初めて受診する際には、当然ながら受診予約をする必要があります。そう、当クリニックに電話をして、受診の予約を取る一連の作業そのものが、場合によっては恐れる状況そのものになっているのです。

当クリニックでは、ウェブサイトからの初診問合わせも可能です。電話が難しい場合には、そちらからご連絡をいただけますでしょうか。(結局のところ、初診予約を完了させるためには私、もしくはクリニックスタッフと一度電話でお話しをすることにはなりますが...。)

いずれにしても、社交不安障害の皆さんにとっては、クリニックの受診予約を取ること自体が第一の関門となります。そして、そこから治療は始まっていると考えてください。私は、この病気を持つ数多くの方々と接してきました。勇気を振り絞って不安な状況に直面することがどんなに大変なことなのか、ある程度は理解しているつもりです。

ご連絡をお待ちしています。

2015年12月7日月曜日

高知大学病院で講演をしてきました

12月5日の17時から、高知大学病院の医学部キャンパスで認知行動療法の講演をしてきました。移動のため、当日の外来終了時間が早くなりご迷惑をおかけしました。また、早めの受診にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

当日は予想を上回る参加者数で、精神科医以外にも多職種の方々にご来場いただけたようです。講演タイトルは「いちからわかる認知行動療法」でした。ひとつでも多くの知識を家に持ち帰っていただけていたら、認知行動療法への興味を深めていただけたとしたら嬉しいなと思います。

講演後は、お呼びいただいた先生を中心に、高知大学精神科医局の先生方とお話し、多くのことを学びました。大学病院医師の仕事は、臨床、研究、教育、地域医療の拡充など多岐に渡ります。先生方の熱意に触れ、ますます明日からの日々に対するモチベーションが高まってくるのを感じました。

参加いただいた皆様、お呼びいただいた先生、高知大学精神科医局の先生方、本当にありがとうございました。

2015年11月3日火曜日

The Price You Pay - Bruce Springsteen

Bruce Springsteenを紹介します。我が国の音楽シーンにも多大な影響(有名どころでは、尾崎豊、佐野元春、長渕剛あたりでしょうか)を与え続けてきた偉大なロックシンガーです。

(それぞれの熱心なファンの方々は一緒にするなと怒りそうですが、)尾崎、佐野、長渕と聞いてどんな音楽スタイルをイメージされるでしょうか。スタジアムなどの大きな会場で、悩める若者たちを鼓舞する熱きカリスマといった光景ではないでしょうか。

それは、部分的には当たっているのですが、私が好きなブルースはそこではありません。彼は、非常に内省的な歌詞を書きます。要するに暗いのです。この暗さに惹かれます。一番好きな曲は、「Wreck On The Highway」という曲なのですが、この曲は交通事故の光景が詳細に語られる曲であり、心療内科・精神科クリニックのブログとしては、紹介するのが適切でないと考えられるので控えます。

同じくらい好きな曲として、「The Price You Pay」という曲があります。人生の選択につきまとう代償について歌われている曲です。(どちらの曲も、The Riverという傑作アルバムに収められています。)

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Little girl down on the strand 
With that pretty little baby in your hands 
Do you remember the story of the promised land 
How he crossed the desert sands 
And could not enter the chosen land 
On the banks of the river he stayed 
To face the price you pay 

その手に愛らしい赤ん坊を抱いた少女が水辺に佇んでいる
約束の地の物語をお前は覚えているだろうか
彼が如何に砂漠を越えたのか
選ばれた地に入ることが許されず岸辺に立ち止まっていたのかを
払うべき代償に直面するために

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生きるということは行動の選択を連続していくことであり、そして、そこには必ず代償がつきまとう。代償に怯えて生きていくのか、それとも...

高校生の頃、この曲を聴きながら、いろいろと考えを巡らせていたことを覚えています。われながら暗い高校生ぶりに呆れてしまいますが(笑)、まあこうして毎日踏ん張っているので良しとします。明日も診療です。来院予定の皆様、よろしくお願いします。




2015年10月22日木曜日

認知行動療法研修事業で講師をしてきました

9月中旬に「平成27年度認知行動療法研修事業 うつ病の認知療法・認知行動療法ワークショップ」が京都大学医学部で行われました。非常に光栄なことに、主催の先生より講師の依頼を頂きましたので、ワークショップの一コマを担当させて頂きました。

学生時代からの憧れだった先生、尊敬し背中を追い続けている先生、日々の温かい臨床から大きな影響を受けた先生に久しぶりにお目にかかり、多くを学ぶことができました。そして、なんとか認知行動療法を身につけて、全国各地の患者さん、クライアントさんの助けになりたいと考える参加者の皆さんの熱量を体感することで、クリニックでの日々の臨床への意欲が更にわき上がってくるのを感じました。

こういった活動についても、時折ご紹介できればと思います。よろしくお願いいたします。


2015年9月8日火曜日

山本周五郎 ながい坂

高校生の頃、短編を中心によく読んでいたのが山本周五郎です。今回、気まぐれに読み始めたのが、この「ながい坂」だったのですが、なぜもっと早くこれを読まなかったのだろうと後悔させられるほどに素晴らしい作品でした。

主人公である主水正のまなざしは、徹底して相対化されています。

「善人と悪人の区別はない、人間は誰でも、善と悪、汚濁と潔癖を同時にもっているものだ、大義名分をふりかざす者より、恥知らずなほど私利私欲にはしる者のほうに、おれは人間のもっとも人間らしさがあるとさえ思う」

主水正は何度も精神的、肉体的に追い詰められます。そんな時、彼がまず取り組むことは、熟慮を重ねることでもなく、解決に向けた行動を急ぐことでもありません。ただただ、自分自身を深く観察しようとします。

「青淵の死は、自分にとって非常な打撃である。こんなとき人はよく、半身を奪われたようなとか、胸に大きな穴があいたようだとかと、受けた打撃の大きく深いことを表現する。自分はどうだろう、主水正はすなおな気分で、自分の心の状態をよく客観してみた。」「おれたちがまったく忘れているときでも、井関川の水は休まずに流れている。」「世の中も人間も時のながれの中にいるし、そのながれは一瞬もとどまることがないのだ。」

そして、精神科医として気になったのが、我が子を失った衝撃から立ち直ることが難しくなっている「ななえ」という女性の描写です。

「ななえの頭は、流産した子のことでいっぱいのようであった。彼女は空想の中でいつも抱いたりあやしたり、添い寝をしていたりするようであった。」「それは空想にとらわれているようではなく、現実そのもののように切実であり、なまなましい実感がこもってい」た。

近親者などの死による悲しみが長期間続き、それにより日常生活に障害が起きている状態のことを複雑性悲嘆と呼びますが、「ななえ」は、それに近い状態にあるようです。複雑性悲嘆については、当クリニックでも将来的に取り組んでいく予定です。今後、当ブログでそのご報告ができればと思います。

最後にもうひとつご紹介です。

「自然の容赦ない作用に比べれば」「貧富や権勢や愛憎などという、人間どうしのじたばた騒ぎは、お笑いぐさのようなものかもしれない。」だが、「お笑いぐさと云われるようなわざを積み重ねるところにこそ」「人間の人間らしい生活をたかめてゆく土台があるんだ」

人間どうしのじたばた騒ぎ。お笑いぐさ。大いに結構。
私も、お笑いぐさと云われるようなわざを、地道に積み重ねていきたいと思います。

それでは、また。